まだまだ寒い日が続きますね。冬の外出は「防寒第一」なので、ついつい同じようなファッションになってしまうのですが、それでもちょっといつもとは違うおしゃれを楽しみたい時、私は着物に袖をとおすことが多いのです。
日本民藝館の展示を見に行くので刺し子の帯を締める、春への期待を表すつもりで梅模様の小紋にするなど、着ることに自分なりの意味を込めることができて、楽しいのです。いい感じに目立ってなかなか晴れがましい気分にもなれますし。それに、何と言っても着物は着ていて暖かい。肌襦袢に裾除け、長襦袢に着物、それに肌襦袢以外は絹素材が殆どですから、究極の重ね着なのですね。夏の浴衣を着物始めにされる方が多いようですが、冬の着物始めも良いものですよ。
着物のおしゃれの仕上げはやはり「香り」です。最近は、エッセンシャルオイルを利用するようになりました。ティッシュやコットンに数滴、好きな香りのエッセンシャルオイルを染み込ませて、(オイルが生地に直接ついてシミになるといけないので)薄くガーゼで包みます。それを袂(たもと)に入れたり、胸元や帯板に挟んだり。着物にはポケットはありませんが、その代わりにいろいろ「仕込める」場所があちこちにあるのですね。体温で温まってくると香りも立ち上がってきます。
「着物と香り」で思い出すのが『源氏物語』。なかなか原典は手ごわいですが、谷崎潤一郎などいくつもの訳本がありますし、田辺聖子、瀬戸内寂聴など現代語で読みやすいものも増えました。「本を読むのはおっくう」という方には、マンガの『あさきゆめみし』をどうぞ。
着物にまつわるシーンでとりわけ好きなのが、「玉鬘(たまかずら)の巻で、この中で光源氏は六条院に住まう女性たちに正月の着物を準備します。光源氏の最も近しいところにいる紫の上には、葡萄染め(赤紫)に濃い桃色を重ねた華やかな装い。六条院の実質的女主人ともいえる紫の上にぴったりです。落ち着いて優しい風情の花散里には、薄藍色を基調にした上品で地味な着物。そして、紫の上の最大のライバルとも言える明石の上には、唐風の白い小袿に濃い紫を重ねた、あでやかでいて上品な衣裳を源氏が選ぶので、横目で見ている紫の上は心中穏やかではなく…と、着物と人物の個性がいい具合に織り上げられていて、着物好きでなくても楽しめる場面です。
着物と同じように香りが人物描写に一役かっているのが「梅枝」の巻。それぞれが香の調合をするのですが、ここでも紫の上の調合した香は「現代風ではなやか、斬新な感じ」と書かれており、対する明石の上の香は少し変わった趣向で「なまめかしくもきよらか」と一歩も譲らぬ出来栄え(※)。香りがその人のセンスやものの考え方、人柄すべてを統合した表現手段であったのだな、思わせます。
お正月のたびに新しい着物を誂えてくれる「光源氏」的存在は望むべくもないので、せめて手持ちの着物とエッセンシャルオイルで、小さな楽しみを始めてみましょう。せっかくですから「サンダルウッド」で「和」の気分を盛り上げて。サンダルウッド、扇子でお馴染みの「白檀」です。深いリラックス効果があるそうです。サンダルウッドだけではちょっと香りが「重いな」と思われる方は、他のアロマとブレンドするといいかもしれませんね。サンダルウッドと相性の良い香り、これは並木さんにアドバイスしてもらいましょう♪

通りすがりの着物姿の女性から、ほのかに良い香り。その香りが着物の柄にもその人の雰囲気にもぴったり…、だなんて、奥ゆかしくも印象深いおしゃれですね。
※着物、香の描写は田辺聖子『新源氏物語』(新潮文庫)を参考にしました。
大武 美和子
サンダルウッド(白檀:ビャクダン):ビャクダン科
日本人にはわりとおなじみのお寺などでもお香などに使用されます。白檀はとてもポピュラーで代表格です。
落ち着いていて深い濃厚さと甘さを併せ持ち、じわじわとこころとからだに浸透していくような趣があります。
緊張を和らげるのに向いています。インドの寺院でも瞑想の際の薫香に用いられています。精神を静めて落ち着くのに向いているのですね。緊張しがちな方や場面などに、エッセイにありましたようにティッシュに少し含ませて胸元など鼻より下部分に置いておくとよいでしょう。
このときにラベンダーの精油があったら一緒に垂らしておくとさらに効果的です。ストレスで眠れないようなときにも使えます。
サンダルウッドは粘度が高くて色が濃いので、アロマボトルから滴下するのに少し時間がかかります。じっくり待ちます。また、シミになりやすいのでくれぐれもお洋服やお着物、寝具などにシミをつけないようにご注意ください。
また、普通の精油は、新鮮なうちに使用しましょう、とか、年月とともに香りは劣化しますといわれますが、サンダルウッドの精油は、年月とともに質も香りもよくなっていくという不思議な特徴があります。
最初の一滴で、強い香りが立つという精油ではないので、もっともっととたくさん滴下してしまいがちなのですが、実はあとからじわじわ濃厚な芳香が押し寄せてきます。はじめは少なめに垂らして様子を見ていくのがほどよい感触をつかむ早道です。これは、サンダルウッドの香りの持続時間の長さにも関係します。何時間かあとでも、さらに翌日でもほのかに香りが残ることが多く、気をつけたいポイントです。
アロマバスにもおすすめです。このとき、サンダルウッドの精油は床下に沈みますので、直接バスタブに滴下しないようにして、牛乳など乳化するもので混ぜてからバスタブに入れます。更年期のイライラやストレス、落ち込みなどには、先のラベンダーとのブレンドや、イランイラン(これだととても濃厚な王族のようなお風呂タイム)やローズウッド、ゼラニウムなどでもすてきだと思います。これでシャンプーのすすぎをするとほのかに髪が香り続けていますので、眠るときにも優雅な気分です。
一般的にサンダルウッドと相性のよいといわれる精油:サイプレス、ミルラ(没薬)、パチュリー、フランキンセンス(乳香)、ネロリ、イランイラン、ラベンダー、ジャスミン、ベチバー、パルマローザ、バジル、ローズ、レモン、ブラックペッパーなど。