簡単気軽にエンジョイライフ~しなやかにこだわる#18



2017年8月26日更新;

 ちょっと面白い本を見つけました。『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著 創元社)という大人の絵本といった体裁の本です。なかなか微妙なニュアンスまでは翻訳しにくいその国ならではの言葉。一語対一語ではすっぱりと翻訳できず、いくつも言葉を重ねないと説明しきれないものやこと。そんな言葉が日本語も含めて52ケ、紹介されています。

 

翻訳できない世界のことば

翻訳できない世界のことば

  • 作者:エラ・フランシス・サンダース
  • 出版社:創元社
  • 発売日: 2016-04-11

 とりわけ面白いなぁと思ったのは、こんな言葉たち。

・ピサンサプラ:マレー語。バナナを食べるときの所要時間を表す言葉。

・カレル:トゥル語(インド南西部)。肌についた、締めつけるもののあと。

・イクトゥアルポク:イヌイット語。だれか来ているのではないかと期待して、何度も何度も外に出て見てみること。

 

 こうした言葉を見ると、その国、人々によって、何が大切なものなのか、愛しいものなのか、どれほどこだわっているのかがそれぞれ違ってくるのだなと思います。バナナを食べる時間なんてどうでもいいじゃない、というのは私たち日本人の考え方。東南アジアだからこそ、毎日食べる身近で大好きなバナナを食べる時間にこだわって、こんな言葉を昔々編みだしたのでしょう。灼熱の地でちょっとでも肌を締めつけるものは避けたいと思う気持ち、氷と雪に閉じ込められた生活のなかで育つ人恋しさ、どれも民族特有の想いから生まれた言葉なのですね。

 

 大切なもの、こだわりたいことは人それぞれ。私のこだわりも他の人からみたら「なんで?」と思うことがたくさんあるかもしれません。あの人がいつもこだわるご飯の食べ方は、私にとっては「変なの!」の一言で済んでしまうのですが、きっと大切な譲れない理由があるのでしょう。





 

 この本を読んだら、大切なものやことには自信をもって大いにこだわろう。笑われても変と思われても、私の大事なもの、好きなことを守り抜こうと思いました。と、同時に他人の物差しも大らかに認めようとも思ったのです。誰だって、他人には翻訳しきれない宝物をもっているはずですから。しっかりとした核があって、でも周りは柔らかくて瑞々しい、桃みたいな気持ちを持っていたい、と思うようになったのです。

 

 最後に、文豪・夏目漱石の翻訳にまつわる素敵なエピソードを一つ。英語を教えていた漱石は、学生が“I love you.”を「我、君を愛す」と訳したのに対して、「日本人は愛しているなどとあからさまに言うようなことはしないだろう。月がきれいですね、とでも訳したまえ」と言ったとか。あからさまに感情を押し付けない。別のものに託すことで、思いを存分に込める。これもまた、私たち日本人が培い、こだわってきたことなのでしょう。

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おまけ:この本には日本語も4つ紹介されています。何だとお思いになりますか? 答えは、

・木漏れ日-ああ、「木漏れ日」っていい言葉だなぁとしみじみ思いますね。

・ぼけっと-へえぇ、勤勉で働きものの日本人だからこそ、ときたま「ぼけっと」することを大切にしたのかもしれませんね。

・侘び寂び-これも納得! ちゃんと翻訳して説明しようとすると、多分一冊の本になるでしょう。

・積ん読-これを一語で表す他言語が見当たらないというのは意外でした。世界共通の悩みのように思えるのに。なんだか胸を張って積ん読に励んでしまいそうです(笑)。

「文筆屋」 大武 美和子

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